この記事の要約
- 75歳以上の免許更新で必須の認知機能検査は、記憶力と時間感覚を確認する重要なステップ。
- テストは「手がかり再生」と「時間の見当識」の2種類が中心で、追加で計算テストが入ることもある。
- 検査は運転の可否だけでなく、日常生活の注意力を把握する目的があり、早期発見の役割も持つ。
- 合格の鍵は「焦らない」「普段から脳を使う習慣をつくる」「ヒントを素直に受け取る」という3点。
- 点数が低くても医師診断で挽回できるため、必要以上に心配する必要はない。
認知機能検査内容とは?
10年以上、高齢ドライバーの安全運転講習を取材してきた私は、更新期になると必ず同じ質問を受ける。「認知機能検査って、どんな内容なの?」「落ちたら免許は取り上げられるの?」という不安だ。実際、75歳を過ぎて免許更新を迎える人の多くが、運転よりもこの検査を心配する。だが、結論から言えば、認知機能検査は“落とすため”ではなく“安全に運転を続けてもらうため”の確認作業であり、必要以上に恐れる必要はない。
加齢と運転の関係は、個人差が非常に大きい。70代でも距離感や注意力が優れている人は多いし、逆に65歳でも急な判断が苦手な人もいる。だからこそ、客観的なチェックが必要なのだ。今回の記事では、警察庁の資料や教習所の現場で見てきたリアルな情報をもとに、検査の流れから合格のコツまで、読みながら理解できる形でまとめていく。読後には「なんだ、こんな内容だったのか」と肩の力が抜けるはずだ。
高齢者講習の認知症テストはなぜ必要なのか?
運転に必要な力は年齢とともにどう変化するのか
高齢者の事故原因を分析すると、速度超過などの大胆な違反よりも、「停止線の見落とし」「左右確認の遅れ」「信号の見間違い」といった判断ミスが多い。これは認知機能の低下と密接に関係している。警察庁の統計(2025年)でも、注意力や記憶力の変化が事故と関連しているという報告が出ている。日常生活では問題なくても、運転のように瞬間で判断が求められる場面では差が出やすい。
そこで導入されたのが認知機能検査だ。目的は「運転能力の把握」であって、即座に免許を取り消すためのものではない。実際、検査結果が低かった場合でも、追加の技能検査や医師の診断を受けることで運転を続けられるケースは多い。これは生活の足として車が欠かせない地域が多い日本に配慮した制度でもある。
結果はどのように分類されるのか
検査は100点満点で評価され、その結果は3つの分類に分かれる。
- 第1分類:認知症の恐れなし。通常の高齢者講習へ進む。
- 第2分類:認知症の恐れあり。講習に加えて運転技能検査が追加される。
- 第3分類:認知症の恐れ大。医師の診断が必要になり、結果によっては免許停止・取消の可能性もある。
ただし、これはあくまで“初期スクリーニング”。医療の判断とは異なり、最終的な判断は専門の医師が行う。更新制度そのものが「安全に運転を続けてほしい」という思想のもと作られているため、第3分類だから即免許停止というわけではない。
出典:警察庁 高齢運転者支援対策(2025年版)
https://www.npa.go.jp/
認知機能検査では何がチェックされるのか?
手がかり再生とはどんなテストなのか
最も時間を使うのが、このイラスト記憶テストだ。検査員が16枚の絵カードを順番に示し、見たものを口頭で答える。すべて見終わったあと、紙に思い出せる絵を自由に書き、それでも思い出せない場合はカテゴリヒント(動物・道具など)が与えられる。
ここで測っているのは単純な暗記力ではなく、見た情報を整理し、必要なときに取り出す力。実は運転にも共通している。例えば、「信号・標識・歩行者・周囲の車両情報を瞬間的に覚えて、行動に移す」という運転の基本と驚くほど似ている。
イラストはA〜Dの4パターンがあり、実際の絵柄は非公開だが、果物・動物・道具など日常的なモチーフが中心だ。戦後世代に馴染みのあるレトロなイラストが混ざることもあり、検査の緊張を和らげる工夫も見られる。配点は自由再生とヒント再生の合計で最大32点。
時間の見当識とは何を調べるのか
もうひとつの重要な項目が、日時と時間を答えるテストだ。年号・年月日・曜日・現在時刻の5項目で構成されており、合計6点。単純な質問に見えるが、これは「時間の流れを把握する力」を見ており、これも運転に必要な判断力のひとつだ。
実際、講習でつまずきやすいのは曜日だという。普段カレンダーを意識しない生活をしていると、案外自信が揺らぐ。「今日は令和何年?」と尋ねられて戸惑う人も多く、検査室で小さなざわめきが起きることもしばしばある。
計算テストは必ず出るのか
100から7を順に引いていく「シリアルセブン」と呼ばれる計算テストが実施される場合もある。計算が得意である必要はなく、間違えても落ち着いて続ければ問題ない。指を動かしながら答えている人も多く、思考の軌跡を丁寧にたどる姿勢が評価される。
出典:JAF公式「高齢者講習体験」
https://jaf.or.jp/
合格するために何を準備すべきか?
日常生活の「小さな習慣」が記憶力を底上げする
検査前に特別な勉強は不要だが、日頃から脳を使う習慣を持っている人は安定して高得点を取る傾向がある。例えば、毎日「今日の出来事を3つメモする」「買い物のリストを頭で覚えて歩く」など、軽い刺激が効果的だ。これらは認知症予防にもつながる行動で、シニアの生活支援系アプリでもよく推奨されている。
また、X(旧Twitter)では「絵カードをストーリーで覚える方法」が人気だ。4コマ漫画のように物語にして記憶すると、意外と楽に思い出せるという声が多い。検査現場でも「覚えるのが苦手」と不安を抱える人が、この方法でスムーズに回答できた姿を何度も見てきた。
当日に気をつけたいことは何か
検査当日は、焦りを減らすことが何より重要だ。会場に早めに着く、トイレを済ませておく、直前にスマートフォンで日時を確認する──たったこれだけでミスは大幅に減る。
多くの人が意外にも「曜日」で間違える。普段カレンダーを見ない生活リズムだと、時間の感覚が曖昧になりやすい。自宅を出る前に家族に今日の曜日を口に出して確認するだけでも安定感が増す。検査員も緊張をほぐすよう声をかけてくれるので、深呼吸して挑むのが良い。
第2分類・第3分類になった場合はどうすればいい?
点数が思ったより伸びなかった場合でも、すぐに諦める必要はない。医師の診断で「実生活に問題なし」と判断されるケースは多く、運転技能検査でも落ち着いた走行ができれば更新できる。実際に教習所の現場でも、「検査の点は低かったけど、実車では全く問題なかった」という例は珍しくない。
近年は自治体による認知機能サポート教室も増えており、更新前に参加する人も増加している。
FAQ
Q:認知症テストに落ちたら、すぐに免許が取り消されますか?
A:いいえ。診断や追加の技能検査を経て、問題がなければ更新可能です。検査はあくまで初期チェックです。
Q:イラストは事前に覚えておけば有利になりますか?
A:特定の絵柄を暗記する必要はありません。出題パターンは複数あり、日常の記憶力と注意力を見る試験のため、暗記学習は推奨されていません。
Q:検査時間はどれくらいかかりますか?
A:およそ30分です。受付や案内を含めると1時間ほど見ておくと安心です。
Q:計算が苦手ですが大丈夫でしょうか?
A:問題ありません。ゆっくり考えれば評価されるので、焦らず続けることが大切です。
Q:何点以上取れば安心ですか?
A:76点以上が第1分類の目安ですが、点が足りなくても医師の診断で補える場合があります。






