この記事の要約
- 2026年7月21日、改正自動車運転処罰法が施行され「危険運転致死傷罪」の基準が数値化された
- 飲酒運転は血中1.0mg/mL以上または呼気0.5mg/L以上で危険運転致死傷罪の対象に
- 速度超過やドリフト走行にも新たに具体的な数値基準が設けられた
- 単純な飲酒運転そのものの罰則(酒気帯び・酒酔い運転)とは別物なので混同注意
- 飲酒運転をした本人だけでなく、車や酒を提供した人・同乗者も処罰される
「危険運転致死傷罪」の基準がついに数値化された
2026年7月21日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」の改正法が施行された。合わせて道路交通法の一部も改正されている。今回のポイントを一言でいうと、これまで曖昧だった「危険運転致死傷罪」の成立基準に、初めて具体的な数値が導入されたことだ。
なぜ改正が必要だったのか
これまで危険運転致死傷罪が適用されるかどうかは、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」「進行制御が困難な高速度」といった、抽象的な表現で判断されてきた。この曖昧さが長年、実務上の大きな課題になっていた。
実際に、時速194kmでの死亡事故が起きたにもかかわらず危険運転とは認められなかったケースや、似たような飲酒量・状況でも裁判所によって判断が分かれるケースが表面化し、遺族や社会から「基準があいまいすぎる」という批判の声が強まっていた。政府はこうした実情を踏まえ、「交通事故の実態に即した対処が必要」「危険運転の対象行為を明確化する必要がある」として、今回の法改正に踏み切った。
何が数値化されたのか。3つのポイント
① 飲酒運転
これまでの「アルコールの影響で正常な運転が困難」という要件はそのまま残しつつ、新たに次の数値基準が追加された。
- 血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上
- 呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上
このいずれかに該当するアルコールを身体に保有した状態で人を死傷させると、危険運転致死傷罪が適用される可能性が高くなる。なお、数値に達していなくても「その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状況」であれば、引き続き対象になり得る点には注意したい。
② 高速度運転
速度超過についても新たな数値基準が設けられた。
- 制限速度が60km/h以下の道路:制限速度を時速50キロ超過
- 制限速度が60km/hを超える道路:制限速度を時速60キロ超過
この基準に準ずるような、道路や交通の状況に照らして重大な危険を回避することが著しく困難な高速度での運転行為も対象に含まれる。
③ ドリフト走行(新設カテゴリ)
今回の改正でまったく新しく加わったのがこのカテゴリだ。殊更にタイヤを滑らせたり浮かせたりして、進行の制御が困難な状態にさせる運転行為が、新たに危険運転致死傷罪の対象として明文化された。
「単純な飲酒運転の罰則」とは別物、混同に注意
ここで整理しておきたいのが、今回の改正はあくまで「事故で人を死傷させた場合に、危険運転致死傷罪という重い罪が適用されるかどうかの基準」を明確にしたものだという点だ。事故を起こしていない単純な飲酒運転そのものの罰則、つまり道路交通法上の酒気帯び運転・酒酔い運転の罰則は、今回の改正対象ではない。
参考までに、現行の飲酒運転そのものへの罰則は次の通りだ。
- 酒酔い運転:5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 酒気帯び運転:3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
これに対し危険運転致死傷罪は、実際に人を死傷させてしまった場合に適用される、はるかに重い罪だ。「今回の改正で酒気帯びの基準値自体が変わった」と誤解している人も見かけるが、変わったのは死傷事故が起きた際の罪の重さの線引きであり、日常的な取り締まり基準(呼気0.15mg/L以上で酒気帯び運転として検挙)はこれまでと変わっていない。
飲酒運転は「本人」だけの問題ではない
見落とされがちだが、飲酒運転にまつわる刑事罰は運転者本人だけにとどまらない。2007年の道路交通法改正以降、次のような人にも刑事罰が科される仕組みが続いている。
- 飲酒運転をすると知りながら車を貸した人(車両提供者)
- 運転することを知りながら酒を提供した人(酒類提供者)
- 運転者が飲酒していることを知りながら同乗した人(同乗者)
「自分は運転していないから関係ない」では済まされないという点は、今回の法改正のタイミングで改めて周知しておきたいポイントだ。
まとめ
今回の改正は、危険運転致死傷罪という「重大な死傷事故に対する罪」の適用基準を、誰の目にも分かりやすい数値で明確化したものだ。裏を返せば、これまで基準の曖昧さゆえに軽い罪で済んでしまっていたようなケースが、今後は数値基準に照らして厳正に処罰されやすくなる。飲酒運転や著しい速度超過、ドリフト走行がいかに重い代償を伴うか、この機会に改めて認識しておきたい。








