保険は継続か乗り換えか——乗り換え派と継続派、分かれた理由

朝の情報番組が、いつもより耳に入った。
「特集:走る距離で変わる“自動車保険の新常識”」
コーヒーをすすりながら、直哉はホワイトボードに“使わない月”と書く。
番組では、月ごとの走行距離に応じて保険料が軽くなるタイプや、アプリ連動で運転傾向をスコア化する仕組みが紹介されていた。
「安いかどうか、じゃない。自分の走り方に合ってるかだな」
彼は2社に電話して、補償の“中身”を聞き比べる。ロードサービスの回数、レッカーの距離上限、示談代行の窓口。ひとつ質問するたびに、知らない引き出しが開く感じがした。

その頃ミナは、SNSの地域コミュニティで“もしものとき”の体験談スレッドを読んでいた。
〈落ち着いたのは“連絡の順序メモ”のおかげ〉
〈慌てて相手に全部しゃべってややこしくなった〉
コメント欄は、いいねの数より具体性で光って見える。
ミナは今の保険会社に電話して、担当者と“連絡フロー”を確認した。
「まず安全確保 → 警察 → 相手の連絡先 → 写真 → こちらへご連絡、の順です。ドラレコ特約は保存時間を延長できます」
耳で聞く“安心の地図”は、アプリの小さな文字よりもずっと広かった。

豆知識②:比較するときは補償項目をそろえる(対人・対物・人身傷害・特約など)。保険料だけを見ると誤解が起きやすい(出典:消費者庁)

昼休み、同僚Kが言った。
「知り合いが駐車場でちょっと擦ってさ。保険は使わずに実費で直して、等級を落とさずに済ませたって」
“等級を守る”って、要は来年以降の割引を温存することだ。無事故で更新すれば等級は一段上がって割引が大きくなる。逆に、保険金の支払いが発生する事故で使うと翌年は等級が下がり、一定期間は“事故あり”の割増引率がかかる——これが将来の保険料に効いてくる。小さなキズなら実費にする方がトータルで安いケースもある、という判断だ。ただし、自己負担や相手方への補償・過失の有無などは状況次第。「使う/使わない」は窓口に相談してから決める——ミナはそうメモ帳に書き足した。自分の身に起きなくても、どう動くかの絵があれば、焦りは少し減る。

補足(ミニ解説)

  • 自動車保険のノンフリート等級制度は、事故歴に応じて保険料の割増引率が変わる仕組み(一般に1〜20等級)。無事故で満期を迎えると翌年は等級が上がり割引が大きくなる。金融庁+1
  • 事故で保険を使用すると等級が下がり、一定期間は**「事故有係数適用期間」**として無事故時より割引が小さい(=保険料が高い)状態が続く。期間は事故の種類で異なり、例として「3等級ダウン事故=3年」「1等級ダウン事故=1年」などの扱いがある(各社規定あり)。MS Ins+1
  • 事故の種類には、3等級ダウン/1等級ダウン/ノーカウント事故(等級に影響しない)などの分類があり、何を“使う”と等級に響くかは内容で変わる。迷ったら窓口で具体的に確認するのが安全。損保ダイレクト

一本の電話で、直哉の“選択肢の形”は変わった。一本の電話で、ミナの“地図の色”が濃くなった。
お金の数字は同じでも、意味は少し違う。

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