夕暮れのハイウェイは、いつもより混み合っていた。主人公の拓也は、25歳の新米営業マン。
今日も残業を終え、疲れた体でハンドルを握っていた。
初めての大きな案件をクリアした余韻に浸りながら、アクセルを踏む。
スマホのナビが「あと30分」と囁く中、突然のブレーキ音が響いた
前方のセダンが急停止し、拓也の車は避けきれず、尾根を軽くぶつける。
ガツン、という鈍い衝撃。
心臓が止まるかと思った。煙が上がり、相手の女性が車から降りてくる。
彼女の顔は蒼白で、腕をさすっていた。「すみません!」拓也は慌てて飛び出し、謝罪の言葉を連発した。
初めての事故。頭の中は真っ白だ。動揺が頂点に達した瞬間、拓也は本能的に現場を離れようとした。
車がまだ動くなら、さっさとこの場を去って、明日謝罪の電話を入れればいい──そんな愚かな考えがよぎった。
相手の女性が「待って!」と叫ぶ声が聞こえたが、無視してエンジンをかけ直す。
心拍数が上がり、汗が額を伝う。
「これで終わりだ、きっと大したことないはず」と思い込む。
でも、数キロ進んだところでサイレンが鳴り響き、パトカーが追いついてきた。
逃走未遂。警察の取り調べ室で、拓也は膝から崩れ落ちた。
あの時、立ち止まっていれば、こんな事態にはならなかったのに。
取り調べの後、拓也はようやく現場に戻された。
相手の女性は軽いむち打ちで病院送り。彼女の夫が怒鳴りながら詰め寄ってくる。
「お前、何やってんだ!」拓也は反射的に「本当に申し訳ない、全部僕のミスです。保険でカバーしますから、許してください」と土下座同然で頭を下げた。夫婦の視線が鋭く、拓也の言葉は次々と飛び出す。「信号は僕が見落としたんです。車も古いし、疲れてたし……」後で知ったが、これは最悪の過失の自白。
弁護士の友人が後日、ため息をついて言った。
「お前、あそこで全部認めたせいで、過失割合が不利になったんだぞ」。
無責任に謝り、詳細を語りすぎたことが、賠償額を膨張させた。夜通し後悔の渦に飲み込まれる。
翌朝、拓也は会社の上司に連絡した。
声が震え、「昨日、事故を起こしてしまって……相手に怪我をさせて、逃げそうになったんです」とすべてを吐露した。上司の沈黙が重くのしかかる。
社用車だったのだ。報告書を書かされ、社内処分が下る。
しかも、相手の保険会社から「直ちに連絡を」との督促が来ていたのに、無視して寝込んでいた。
数日後、訴訟の予感が漂う電話が鳴る。保険適用が遅れ、個人負担が増大。
拓也の貯金は一瞬で底をついた。「早く連絡していれば、会社も保険会社も動いてくれたのに」。
ミスの連鎖が、人生の歯車を狂わせていく。数週間後、拓也は一人、アパートのベランダで煙草をふかす。
首の痛みが残るのは、事故の衝撃か、それとも心の重荷か。裁判所からの書類が山積みになり、仕事も休職扱い。
相手の女性は回復したが、家族のトラウマは消えないという。
拓也は鏡に映る自分の顔を見つめ、呟く。「あの夜、ただパニックに任せなければ」。
初めての事故は、5つの過ちを教えてくれた──逃げ、謝りすぎ、連絡を怠り、怪我を無視し、証拠を残さなかったこと。それらはすべて、取り返しのつかない傷跡を残した。外の街灯が揺れ、拓也の涙が静かに落ちる。明日から、どう生きればいいのか。物語はまだ、終わらない。
間拓也の「やってはいけなかった」5つ(要点まとめ)
1. 現場を離れようとした(逃走未遂)
何がNG? 事故現場から離脱=救護義務・報告義務違反の疑い。刑事・行政処分や保険対応の不利に直結。
最短の正解手順:
- ハザード点灯+安全確保
- けが人の確認・119(必要なら)
- 110で事故通報
- 発煙・漏れの有無を確認
- 三角表示板等で二次事故防止
2. その場での“全面自白”+過剰な謝罪
何がNG? 「全部自分のミス」「信号を見落とした」等の断定は、事実確定前でも過失割合を不利に進めがち。感情的な連続謝罪も交渉をこじらせる。
最短の正解手順:
- 感情の謝意(「お怪我はありませんか」「ご心配をおかけしてすみません」)はOK
- 過失評価は断定しない:「詳細は警察と保険会社を通じて対応します」と事実共有にとどめる
3. 連絡の遅延(会社・保険への初動が遅れた)
何がNG? 事故受付が遅れるほど代車・治療費・示談の初動が遅れ、免責や自己負担が増大。社用車なら社内報告の遅れは処分リスク。
最短の正解手順:
- 警察通報の直後に、①加入保険の24h事故受付、②会社・上司(社用車の場合)、③代理店へ連絡
- 伝える要点:日時/場所、相手情報、けがの有無、警察の事故受理番号、車両の状態
4. けが・救護の優先順位を誤った(相手の状態把握が甘い/自己症状も放置)
何がNG? むち打ち等は遅発症も多いのに、救護と受診が後手。
最短の正解手順:
- 相手を安全地帯へ誘導しつつ無理に動かさない/寒さ・雨風対策
- 救急の要否を判断→必要なら119
- 自分も必ず受診(診断記録が後日の証拠になる)
5. 証拠・記録を残さなかった(立証力の欠落)
何がNG? 写真・位置・会話記録・ドラレコ保全がないと、後の事実認定で不利。
最短の正解手順:
その場の会話は要点メモ(日時・場所・発言要旨)
写真:車の四隅 → 接触部の接写 → 道路全景 → 信号・標識・制限速度表示 → ブレーキ痕
情報:警察の受理番号、相手の氏名・連絡先・車両・保険会社名
ドラレコは上書き防止(電源オフ/保護フラグ)