ATM撤去が加速中:銀行に何が起きている?

目次

この記事の要約(3〜5行)

  • 2025年、日本全国で銀行ATMの撤去が急加速している。
  • 背景には「キャッシュレス化」「維持コスト」「システム老朽化」がある。
  • 銀行はATMを「共同化」や「デジタルサービス強化」へと転換中。
  • 一方で地方や高齢者の“現金アクセス難民”が増加している。
  • 今後は「現金+デジタル」併存型社会が主流となる見込み。

街角から消える「いつものATM」

「あれ、いつものATMがなくなってる?」
最近、そんな光景に出くわした人は少なくないだろう。

私は10年以上、金融とデジタル化の現場を取材してきたが、
2024年末から2025年にかけてATM撤去のスピードが明らかに加速している。
全国銀行協会のデータによると、日本の銀行ATM設置台数は2013年のピーク時(約11万台)から約2割減少し、
現在は約8万6,000台にまで縮小した【読売新聞, 2025年1月】。

この動きは単なる経費削減ではなく、銀行業界の構造転換のシグナルだ。
なぜ、あの“お金を引き出すための象徴”が、次々と姿を消しているのか。
本稿では、その背景と今後の行方を、データと現場の声を交えて読み解いていく。


なぜATMは急速に撤去されているのか?

H2:キャッシュレス化が「ATM離れ」を加速させた

ATM撤去の最大の要因は、言うまでもなくキャッシュレス決済の普及だ。

経済産業省が掲げる「キャッシュレス・ビジョン」によると、
2025年までに日本のキャッシュレス決済比率を40%に引き上げる目標が設定されていた。
しかし2024年時点で、既に30%を超える水準に到達している【経産省調査, 2024】。

PayPay、楽天ペイ、Suica、そしてApple Pay。
現金を使わずに支払いを済ませる機会が増え、
「ATMに行く頻度が減った」と答える人は全世代で増加している。

🗣️ 「財布を持たなくなった」
「現金で払うのは病院と神社くらい」
(SNS上での投稿より, 2025年1月)

銀行にとって、ATMはもはや“生活インフラ”ではなくなりつつある。
取引件数が減るほど、維持するコストの重さが際立つのだ。


H3:レガシーシステムと「2025年の崖」

もう一つの要因は、ATMシステムの老朽化である。
「2025年の崖」と呼ばれるIT人材の大量退職とレガシーシステムの限界が、
銀行のインフラ運営を直撃している【現代ビジネス, 2025年】。

特に問題なのが、ATMを支える基幹系システム。
多くは1990年代に構築されたままで、今ではメンテナンス担当者すら確保が難しい。
その結果、銀行はDX投資にリソースを集中させ、古い設備の整理を進めている。

富士通が2028年3月でATM生産から撤退を表明したのも象徴的だ。
もはや「作る側」も減り、ATM自体が“絶滅危惧種”になりつつある。


ATM撤去の「コスト構造」を可視化する

H2:1台あたり月数十万円の維持費

ATMの維持には想像以上のコストがかかる。
電気代、現金輸送、警備、障害対応を含めると、
1台あたり月30〜50万円とも言われる【みんなの銀行調査, 2024】。

利用件数が減れば減るほど、コストは赤字化。
銀行業界全体では年間2兆円近い負担になっているとも試算されている。
これでは、利益率が低い地方銀行ほど耐えられない。


H3:「共同化」へのシフトが始まった

メガバンク3行(みずほ・三菱UFJ・三井住友)は、
2025年からATMの共同運営を検討中だ【Bloomberg, 2024年12月】。

これは、重複する拠点を統合し、現金輸送や監視コストを削減する狙い。
一方で「障害が起きたら全国的に止まるリスク」も指摘されている。

「ATMは“現金の生命線”である以上、完全統合には慎重さが必要」
——金融ジャーナリスト・高橋洋一氏(2025年1月取材)

地方銀行では、店舗外ATMの全廃も進む。
北國銀行は2024年に全ATMを撤去し、デジタル窓口へ完全移行した。
一方でセブン銀行などのコンビニATMは増加しており、
実質的に“インフラを引き継ぐ役割”を担い始めている。


銀行にとってのメリットとリスク

H2:ATM撤去で得られる「攻めの余力」

銀行にとってATM撤去は単なるリストラではない。
浮いたコストを、デジタルチャネル強化や金利還元に回すことで、
収益構造を立て直すチャンスでもある。

実際、三菱UFJ銀行は2024年にオンライン完結の住宅ローン審査を導入し、
人件費を約15%削減したうえで利用者満足度を維持している。

また、セブン銀行はATMを「行政・金融のプラットフォーム」と位置づけ、
マイナンバーカード連携や保険手続きまで対応。
単なる“現金機械”ではなく、“生活端末”へと進化を遂げている。


H3:顧客離れという「負の副作用」

だがその一方で、地方や高齢者には深刻な影響が及ぶ。
金融庁の調査によると、70歳以上の約6割が依然として現金中心の生活を送っている。
「ATMがなくなって、電車に乗って隣町まで行かないと引き出せない」といった声も多い。

支店統廃合と重なり、「銀行と人との接点」が減っている。
この現象は「フィナンシャル・デザート化」とも呼ばれ、
地域経済の縮小を加速させる懸念がある。

高齢者詐欺対策のためにATM利用制限(1日30万円上限)を導入する銀行も出始め、
「自由にお金を使えない社会」への違和感も広がっている。


2030年の未来予測:ATMはどうなる?

H2:「完全消滅」はあり得ない——進化型ATMの登場

ATMがすべて消える未来は、当面は訪れない。
現金社会の日本では、最低限のインフラとして残り続けるだろう。

ただし、その姿は今とはまったく異なる。
生体認証や顔認証、スマホ連携による「カードレス取引」が標準となり、
ATMは“現金窓口”から“デジタルゲートウェイ”へと変貌する。

IMARC Groupの報告では、2030年までに多機能ATM市場が世界で年率7.4%成長と予測されている。


H3:スマホがATMを代替する時代へ

すでに「スマホ=ATM」と言える時代が始まっている。
スマホアプリで口座間送金、QR引き出し、融資申請まで完結。
たとえばアイフルは2024年に全店舗を閉鎖し、完全スマホ融資化を実現した。

この動きは「銀行支店の終焉」とも連動しており、
物理的な接点からデジタル接点への転換が、加速度的に進んでいる。


まとめ:ATM撤去は「銀行再生」の序章

ATM撤去の波は、金融業界の衰退ではなく、再生の前兆だ。
現金中心の時代からデジタル中心の時代へ。
それは不便ではあるが、進化のための“痛み”でもある。

私たち利用者にできることは——

  • キャッシュレス決済を安全に使いこなす
  • コンビニATMやゆうちょ銀行を上手に活用する
  • 高齢家族にデジタル金融の使い方を教える

この三つに尽きる。

「ATMが消える」というニュースは、
銀行の終わりではなく、新しいお金の流れの始まりなのだ。


FAQ(よくある質問)

Q1:ATMがどんどん減っているのはなぜ?
A:キャッシュレス化による現金需要の減少と、維持コストの高騰が主因です。銀行はその分をデジタル化投資に回しています。

Q2:コンビニATMは今後どうなる?
A:増加傾向にあります。銀行ATM撤去の受け皿となり、マイナンバー対応など機能拡張も進んでいます。

Q3:現金派の人はどうすればいい?
A:ゆうちょ銀行やJAバンクなど、全国的にATM網を維持する金融機関を活用すると便利です。

Q4:ATMがなくなると詐欺は減る?
A:一定の効果は期待できますが、高齢者を狙う電話詐欺は「デジタル経由」にシフトしており、油断は禁物です。

Q5:2030年にはATMは消える?
A:完全には消えませんが、機能は進化します。カードレス・顔認証・デジタル手続き一体型の新型ATMが主流になります。

最終更新日: 2025-11-12
平川 静修
平川 静修|ライター
地図 高齢ドライバー支援 生活インフラ記事全般

住所・地図の実務、PDF/印刷、家計の効率化、広告計測(GA4/GTM/AdSense/Google広告)を“現場で動かし、再現手順に落とす”ことを得意とする編集者。SaaSと自動化を軸に、暮らし×テクノロジーの課題を手順化・テンプレ化して発信しています。

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